『スター・トレック』レビュー
『エイリアス』や『LOST』などの人気テレビドラマを手掛けたクリエーターとして名を馳せたJ・J・エイブラムスは、映画監督デビュー作の『M:i:III』でもその手腕を発揮し、極めて高いクオリティに仕上げてみせた。
そんなエイブラムスがSFドラマの金字塔である『スター・トレック』を再スタートさせるとくれば、否が応でも期待が高まるというもの。果たして新生『スター・トレック』の出来は如何に。
───西暦2233年。惑星連邦船USSケルヴィンは、突如出現した謎の巨大宇宙船から攻撃を受けた。船長のジョージ・カークはクルーに退艦命令を出すと、一人で艦に残り決死の攻撃に出る。身重の妻が脱出艇の中で出産したことを知ったジョージは、敵艦に突撃するさなか我が子に命名した。その名はジェームス・タイベリア・カーク───
なんせパラマウント・ピクチャーズの重役がまだまだ未完成のファーストカット版を観て絶賛し、果てには公開一ヶ月前にして続編の制作がほぼ決定したというのだから恐れ入る。
しかして、劇場公開を迎えた映画『スター・トレック』は、噂にたがわぬ中々の佳作だったのである。
今作は、オリジナルシリーズの主役であるジェームズ・T・カークとミスター・スポックの若き日にスポット当てた、所謂"エピソード0"だ。しかしながら、前日譚でありながらも、これまでのシリーズには直接つながらないもう一つの「スター・トレックの世界」の始まりを描いている。
この「オリジナルシリーズには続かない理由」をきちんと用意してあるのが今作の肝だ。「仕切りなおしの新シリーズです」と素知らぬ顔で新生させず、ある巧みな設定でけじめを付けているのが秀逸だ。その「理由」は見てのお楽しみ、自分の目で確かめて欲しい。
さて、ハリウッド大作の醍醐味といえば世界最高峰の視覚効果だろう。ILMらが手掛けたCGは「VFXもここに極まる」といった感じで、何処からがCGで何処までが実写なのか区別する意味は最早なくなっている。
そういった技術が効果的に使われた「バルカン星へのスカイ(スペース?)ダイビング」のシークエンスなどは、度肝を抜かれること間違いなし。劇場の大スクリーンが映える、映画館で観る価値のあるシークエンスだ。
といった具合に良作ではあるけれど、J・J・エイブラムスが「シリーズ未見でも楽しめる」とインタビューで答えている割りには、「シリーズファンならもっと楽しめるのだろうな」という要素が結構多いのは気になるところ。
とはいえ、「青年の成長物語」に主軸を置いた王道ストーリーなので『スター・トレック』シリーズ初体験でも問題なし──ちょっと損した気にはなるけれど──。
さように映画『スター・トレック』は、シリーズファンがちょっと羨ましくなる、新生シリーズのスタート作として申し分のない一本だ。
評点(10点満点)
【7点】スペースオペラの入門篇に。
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ネタバレ余談
(注) ここ以降はネタバレを含みます。既に観賞した方のみお読みください。
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映画『スター・トレック』を既にご覧になった方ならご存知の通り、「オリジナルシリーズには続かない理由」とは、スポックとネロが未来からタイムスリップして来て過去に干渉したためにパラレルワールドへと分岐したからである。
大抵の新生シリーズ物は、オリジナルシリーズとは違う展開になる理由なんて用意していない。それをわざわざ理由付けするなんて、流石は仕掛け好きのJ・J・エイブラムスだ。
この設定で思い出したのが、任天堂でソフト開発を手掛ける宮本茂の「(真の)アイデアというのは、複数の問題を一気に解決するものである」
という言葉。(参照:アイデアというのはなにか? - 1101.com)
「スポックが未来からタイムスリップしてくる」という一つの設定で
- オリジナルシリーズでスポックを演じたレナード・ニモイが無理なく出演
- 過去の物語でありながらもスポックのその後が描ける
- オリジナルシリーズとは違う物語になる理由
- そもそもその設定で物語が丸々一本できる
といった具合に色々と巧くいく。なるほど確かにこういったものが本当のアイデアなんだろう。
監督のインタビューによると、オリジナルシリーズでカーク船長を演じたウィリアム・シャトナーを出演させるアイデアも生まれつつあるとのこと。
続編では一体どんな"アイデア"を見せてくれるのか、J・J・エイブラムスはまだまだ目の離せないクリエーターであり続けそうである。
- タイトル:
- 『スター・トレック』レビュー
- カテゴリ:
- 映画
- 公開日:
- 2009年06月13日
- 更新日:
- 2018年05月30日