『天野可淡展』鑑賞記

日本に於ける球体関節人形は、いわゆる「お人形」とは一線を画した、インモラルな美しさに傾倒した独自の深化を遂げています。

そういった球体関節人形の中でも、人形作家の天野可淡(あまのかたん)さんが生みだした人形たちは、艶かしい精気を放ち、「そこに居る」という確かな存在感があるのです。

もし仮に、それらの人形を手に入れることが出来る僥倖にめぐり合ったとしても、おいそれとは手を出せないような気品と退廃的な妖気を併せ持っているのです。

残念ながら天野可淡さんは1990年に交通事故で逝去されたのですが、彼女の遺した人形たちは「カタンドール」と称され今もなお多くの人たちに愛されています。

しかしながら、作品集は諸般の事情で絶版になっていました。それが今年2007年夏に待望の復刊を遂げたのです。復刊に合わせて展覧会『天野可淡展』も開催されました。個人蔵が多いカタンドールを間近に観られる貴重な機会を逃すわけにはいかないと、渋谷「マリアの心臓」まで足を運びました。

「マリアの心臓」はとても小さなアートギャラリーなので展示数こそ少なかったものの、久しぶりに観たカタンドールはやはり素晴らしいものでした。

カタンドールは、何処か異形の者を思わせる特異な造形をしているので、人形にわかりやすい可愛さを求める人にとって受け入れ難い存在かもしれません。半人半獣や悪魔など、そのものズバリ異形の者も多いことから、天野可淡さんは人形を人間の似姿にすることに拘らなかったことが窺えます。おそらくは造形的な美しさではなく、もっと感情的なものを人形に託したのかもしれません。それ故かカタンドールには、岡本太郎さんが提唱した「なんだ、これは!」という驚きがあります。一見理解できないのに強く惹かれてしまう、そんな強い求心力です。

今回の『天野可淡展』の展示内容は、「マリアの心臓」の前身にあたる「マリア・クローチェ」で以前観た作品に比べると、いくぶん決定的な作品に欠ける気もします。ですが天野可淡として活動を始める前の学生時代に作った人形や、創作人形協会展奨励賞を受賞した人形など、初見の作品も多く展示されており、十分満足のいく展示会でした。

オフィシャルサイト

マリアの心臓
日本人形や西洋アンティークドールや現代作家人形のアートギャラリー。
DOLL SPACE PYGMALION
天野可淡さんが生前に在籍していた人形教室。

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余談

「マリアの心臓」に行ったのは三度目だったのですが、壁にマリリン・マンソンとティム・バートンの絵付きサインがしてあるのに今回やっと気が付きました。二人とも好きなアーティストだったので、とても得した気分。

ティム・バートンは映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の主人公ジャックのイラストを書いているのですが、これが(あたりまえだけれど)巧い!一筆書きが如くざっと書いてるのにジャックの微妙な曲線が完璧です。やっぱり本物は違いますね。

追記

【1】「マリアの心臓」は、2011年10月に惜しまれつつも閉館しました。ゴシックな人形たちに会える、貴重な人形博物館でした。

【2】2015年4月25日から京都大原に場所を移し、「マリアの心臓」が復活したようです。

タイトル:
『天野可淡展』鑑賞記
カテゴリ:
イベント
公開日:
2007年10月04日
更新日:
2018年05月30日

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