『ダニー・ザ・ドッグ』レビュー

『グラン・ブルー』、『レオン』と名作を連発して一世を風靡したリュック・ベッソン。しかし、1999年の『ジャンヌ・ダルク』以降に監督作は無く(脚注)、鳴りを潜めている……かのようだが、実のところ脚本を量産していて、その数は00年代に入ってから10本もある。その10本目が『ダニー・ザ・ドッグ』だ。

───5歳の時に悪漢バート(ボブ・ホスキンス)に引き取られ、奴隷として犬のように育てられたダニー(ジエット・リー)。殺人マシーンとして成長したダニーは、バートの金儲けの道具になっていた。 あるときダニーは盲目のピアノ調律師サム(モーガン・フリーマン)に出会い───

主演がジェット・リーと聞いて一番期待するのは、やはりアクションだろう。『マトリックス』でカンフー・コレオグラファーを務めたユエン・ウーピンがアクション演出を手掛けた本作は、その期待を大きく上まる。幼少の頃から武術を学んできたジェット・リーが演じるのだから、通常の役者が演じるファイトシーンとはまるで格が違う。蹴り一つ取って見ても、下半身が地面に張り付いたように安定していて重量感がある。素人目に見てもその差は明らかであり、高い興奮度につながっている。

ダニーはカンフー・マスターではなく喧嘩屋なので、ファイトシーンは暴力的な刺激が強い。しかし、ジェット・リー本人が「愛や責任がともなわない武術はただの暴力であるということを伝えたい」とインタビューで答えているとおり、暴力賛歌の映画には決してなっていないので安心して観ることが出来る。ジェット・リーの笑顔が可愛らしく、子供のような純真さを残したダニーは当たり役だ。

ダニーを導くサムを演じるモーガン・フリーマンは、ジェット・リーの演技も導いたそうだ。泣くシーンを嫌がっていたジェット・リーに涙を流させたのはモーガン・フリーマンだとか。サムが盲目の設定もモーガン・フリーマンが提案した。これによって、この映画最大のツッコミどころであるサムがダニーを家に住まわせるくだりに、「盲目ゆえに先入観を持たずダニーの深層の悲しみと純真さを感じ取り、息子のように受け入れた」と解釈付けたのだから、モーガン・フリーマンの果たした役割は非常に大きい。

個人的な拾物は、ヒロインを演じるケリー・コンドン。歯の矯正が似合うキュートな役で魅力をふりまいている。今後の活躍を注目したい。

リュック・ベッソンがメガホンを取らず脚本に専念した作品は、おしなべてツッコミどころが多く、この映画も例外ではない。だが、『ダニー・ザ・ドッグ』はツッコミどころが満載でありながらも、人間性や愛を描いたシリアスな良作だ。

評点(10点満点)

【7点】ジェット・リーが好きになる。

脚注

本稿は『アンジェラ』公開前に執筆しました。

タイトル:
『ダニー・ザ・ドッグ』レビュー
カテゴリ:
映画
公開日:
2006年09月14日
更新日:
2018年05月30日

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