『デジャヴ』レビュー&解説

初めて体験したはずの出来事なのに、過去に経験したことがあるように感じる「デジャヴ(既視感)」。誰もが一度くらいは感じたことがあるだろうデジャヴをタイトルに据えた本作は、時間が織り成す運命的な出来事をドラマチックに描いている。

─── 543名もの乗客が死亡したフェリー爆発事件。ATF の捜査官ダグ・カーリン(デンゼル・ワシントン)は、事件の手がかりになる女性の遺体に対面したときデジャヴを覚え───

時間と記憶をテーマにした映画は、ノスタルジアを誘う、ほの悲しい作品が多い。しかし、ドライな演出が得意なトニー・スコットが監督した『デジャヴ』は、スピード感とド派手なアクションシーンが溢れた、分りやすい娯楽性のある、どちらかというとカラッとした作品だ。

サスペンスの体裁をしているが、謎解きよりもアクションの比重が高く、所謂「ハリウッド映画」に仕上がっている。そのため、謎解きが好きな人は物足りなさを感じるかもしれないが、巨額の予算が組めるハリウッド映画ならではの映像は、その不満を補って余りあるだろう。

デンゼル・ワシントンの演技力は言うまでもなく、脇を固める役者陣の演技も申し分ない。その他、美術や音楽なども含め、充分に満足の行く完成度を誇っている。

高い娯楽性とスピーディーな展開、そしてほのかなラブ・ロマンス。映画ならではの空想世界を存分に堪能できる、ハリウッドらしい佳作の登場だ。

評点(10点満点)

【7点】トップクラスのマネーメーカーであるジェリー・ブラッカイマーの面目躍如。

ネタバレ

(注) これより下はネタバレを含みます。既に観賞した方のみお読みください。

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『デジャヴ』をご覧になったならご存知の通り、本作はタイムスリップを扱ったSF映画である。客を呼び込みためにネタバレをも辞さない宣伝がまかり通っている昨今、タイムスリップを明かさない『デジャヴ』の劇場予告編は、好感が持てる誠実なものだと思う。(その反面、超自然現象を期待した人をがっかりさせるかもしれないけれど)

さて、レビュー本文でも書いたように、『デジャヴ』はあまり謎解きの部分を描いていない。というわけで、タイムスリップ周辺の謎をざっくりとですが解説します。

解説

過去は変えられない?

『デジャヴ』におけるタイムスリップのルールは、劇中でタイムマシンの研究員が説明する「過去に干渉すると、その時点から世界は分岐して、パラレルワールド(並列世界)が発生する」というもの。

つまり「過去の違うもう一つの世界を発生させる」ことは出来るが、「この世界の過去を変える」ことは出来ない。本作は、このルールを絶対のものとして展開する。

図解すると下記のようになる。

タイムラインの図解
観客が見ているのはパラレルワールド?

前述のルールに従うなら、過去に転送したメモはパラレルワールドに届き、「この世界の過去」へは届かないはずだ。しかし作中では、メモが過去に届き、ダグの相棒ラリーの手に渡る。このことから、本作が観客に見せているのは、既に過去が変わったパラレルワールドだとわかる。

クレアの部屋に指紋を残したのは誰?

クレア・クチヴァーの部屋にはダグの指紋が残っていた。しかし「同じ世界」の過去へは戻れない。つまり、指紋を残したのは前述図解の「②から③へ移った、もう一人のダグ」である。以降は、彼をダグ②と呼ぶ。

ダグ②はどうなった?

ダグ②は、犯人オースタッドの隠れ家に救急車で突っ込み、クレアを救出するが、オースタッドの確保には失敗する。その後クレアの部屋に行き、ボードに「U CAN SAVE HER」のメッセージをダグ③へ向けて残し、フェリーの爆破を防ぎに行くが就航前にクレア共々オースタッドに殺された。

桟橋の下でワニに食べられていたのは誰?

オースタッドに殺害されたダグ②である。

後述「残る疑問と本稿の矛盾点」も参照してください。

ちょっとまって!この映画の主人公は誰?

ダグ③である。

じゃあ、ダグ①は?

ダグ①は、本作には登場しない。

ダグ・カーリンが過去に戻るのは二回目?

「二回目」ではなく、「二人目」である。

ラストでダグが何食わぬ顔で登場したけど?

彼は、何も知らないダグ④である。

何も知らないはずなのに、何故デジャヴを感じたの?

同じ人物は、時空を越えて記憶をかすかに共有するという、ちょっとロマンチックな話。

まとめると?
世界 ダグ クレア オースタッド ラリー
メモを②の世界に転送 車を売らず生存(運命論を考慮するなら、フェリーに乗り死亡) フェリーを爆破 休暇中にフェリーに乗り死亡
クレアを助けるため過去に戻り③へ 車が必要になったオースタッドに殺される フェリーを爆破、クレアとラリーを殺害 メモを読みオースタッドと接触、殺される
ダグ②は死亡/ダグ③はクレアを助けるため過去に戻り④へ 証拠隠滅のためオースタッドに指を切られ殺される 同上に加え、ダグ②を殺害 同上
ダグ③は爆死/ダグ④は何も知らずクレアと遭遇、パラレルワールドを超えた記憶がデジャヴを呼ぶ ダグ③に助けられ生存 ダグ③に撃たれ死亡 同上
ところでこの解説って信頼出来るの?

これらは私の解釈であり、製作者側の意図とは異なるかもしれません。また、この解説は映画館で一度だけ鑑賞した時点で執筆しています。

残る疑問と本稿の矛盾点と補足追記

図解ではメモを過去に送ったのはダグ①だけになってるけど?

図解では省略しましたが、ダグ②ダグ③は、それぞれメモを過去に送っています。変更された過去は次のパラレルワールドへ引き継がれるため、そのことにより世界が更に分岐することはありません。

冒頭で死体袋の中から鳴っていた携帯電話の意味は?

フェリー爆発の犠牲者に見えるようにオースタッドが偽装したラリーの死体が入っていて、ラリーを探している ATF のメンバーが電話を鳴らしているのだろうか。しかし、特殊な薬品をかけられて燃やされた携帯電話が動作するだろうか?劇中では、ラリーは完全に焼失してしまったように見て取れるが…。

オースタッドは殺したはずのダグに再会した?

本稿の解釈だとオースタッド③ダグ②を殺した後にダグ③に逮捕される。しかしオースタッド③からは、そのことに関する動揺が見えない?

ワニに喰われていたのは本当にダグだったのか?

疑問は残るものの、私はダグと結論付けました。おそらくは、この解釈が一番「そうだったのか!」という驚きがあって面白いでしょう。観賞後に推理をして、この結論に達した瞬間には鳥肌が立ち、本作の私的評価がグッと高まったくらい。ですから DVD・BD 版で新たな発見があっても、私はこの結論を保持します。

とはいえ、これは私個人の解釈です。『デジャヴ』を観た人たちで、「いや違うよ!ワニに喰われてた死体はラリーで、ダグの死体は携帯電話が鳴っていた死体袋に入ってたんだよ!」なんて風に話し合い、人それぞれの結論を出すのが映画の楽しみ方だと思います。だって、自分で導き出した結論ほど楽しいものはないのですから。

ちなみに、確認は取っていませんが、ノベライズやDVDのオーディオコメンタリーでは、「ワニに食べられていたのはラリー」だと明言しているらしいです。

おわりに

それでは、長文に最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

タイトル:
『デジャヴ』レビュー&解説
カテゴリ:
映画
公開日:
2007年03月28日
更新日:
2018年06月22日

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