『イノセンス』レビュー

───西暦2032年。人とサイボーグ(機械化人間)、そしてアンドロイド(人型ロボット)が共存する近未来。愛玩用アンドロイドが原因不明の暴走を起こし所有者を殺害、その後に自壊するという事件が相次ぐ。公安9課のバトーとトグサが捜査に乗り出し───

賛否両論で、どちらかといえば否の意見が目立つ『イノセンス』。確かに万人に受ける内容ではない。しかし、老若男女に向けて作られるディズニーのアニメ映画とは違うのだから、それで良い。観る人によって駄作にも傑作にも感じえるタイプの作品は、ツボに入ると深くハマる。少なくとも私にとっては、長く心に残る、賛美に値する傑作になった。

まずは圧倒的な画の力。アニメでしか成し得ない映像で、日常では決して体験できない映像世界を堪能できる。映画館の大スクリーンで観る意義のある映像美だ。莫大な予算をかけて撮るハリウッド映画だって、これほどの映像を作り上げている作品は少ない。これだけでも『イノセンス』は、観る価値がある。

では、肝心の物語はどうか。賛否の否の意見は、この物語の部分に起因しているのが大半だろう。膨大な量の引用や、多数の難解な用語。それらにうんざりする人がいるのも理解できる。こればかりは、好き嫌いが分かれるのも仕方がない。しかし、難解なテーマを掲げた作品とはいえ、軸になっているのは物悲しいラブストーリーだったりもする。素直に主人公バトーの心情にピントを合わせて鑑賞すれば、ハードボイルドで切ないラストが沁みるはずだ。『イノセンス』は、ただただ難しいだけの独りよがりな作品では決してない。

『イノセンス』は、一切の妥協なしで作り込んだ、最近の邦画には珍しい、とても映画らしい映画。少しでも興味が沸いたなら食わず嫌いせず、是非観てほしい傑作である。

評点(10点満点)

【9点】繰り返しの鑑賞に堪える完成度。

注意!

本作『イノセンス』は、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の続編です。前作を観ていないとバトーの心情やクライマックスの展開が理解できません。

タイトル:
『イノセンス』レビュー
カテゴリ:
映画
公開日:
2006年12月09日
更新日:
2018年05月30日

この記事をシェア

あわせて読みたい