『フーリガン』レビュー

暴力は非生産的で空しい。しかし狩猟本能がいしずえにある暴力は、人間の根源的な部分に訴えかけ、ときに魅力的でもある。『フーリガン』は、そんな暴力に生きる男たちの映画だ。

───ハーバード大学でジャーナリズムを学ぶマット・バックナー(イライジャ・ウッド)はルームメイトに麻薬売買の罪を着せられ退学処分になってしまう。姉を頼ってロンドンに逃げたマットは、フーリガンのピート・ダナム(チャーリー・ハナム)と出会い───

暴力を賛美する映画ではない。暴力で失うものは大きく、一歩間違えれば取り返しのつかない事態を招くことを描いている。けれど暴力が生み出す興奮も同時に描いている。観ているだけでアドレナリンが吹き出る過激でリアルな暴力シーンが『フーリガン』の大きな魅力であることは間違いない。

それらの暴力描写を演出した本作の監督が女性であることが興味深い。不器用に生きる男たちに理解を示す演出をしながらも 登場する女性はそんな男たちに一切の理解を示さない。その微妙な距離感は女性監督ならではだろう。

そのレクシー・アレクサンダー監督が「私が惚れるような男が主人公じゃなきゃ、私が監督する意味がない」と語るだけはあって、主人公たちがとにかく格好良い。とくにチャーリー・ハナムが演じるピートは眩いカリスマ性を放っていて、男女問わず観客は彼に惚れ込むことになるはずだ。

暴力的とはいえ、主人公たちは女性にやさしい英国紳士ばかりなので女性でも気分よく観賞できるだろうし、フットボール(サッカー)に興味がなくても十二分に楽しめる作りにもなっている。男の友情と美学をテーマに据えた『フーリガン』は、広く映画ファンにおすすめしたい傑作である。

評点(10点満点)

【8点】「男の生き様」映画の中でトップクラスの作品。

余談

作中でもっとも目を引くファッションは、なんといってもピートが着ているトレンチコート。トラッドなトレンチコートの中にジャージを着ているあたりが、イギリスっぽくて格好良い着こなしですね。

ちなみに、腕章が印象的なあのトレンチコートはイタリアのファッションブランド「STONE ISLAND(ストーンアイランド)」製らしいです。

タイトル:
『フーリガン』レビュー
カテゴリ:
映画
公開日:
2006年10月03日
更新日:
2018年05月30日

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