『ステイ』レビュー

───精神科医のサム・フォスター(ユアン・マクレガー)は、患者のヘンリー・レサム(ライアン・ゴズリング)を担当することになる。サムは、三日後に自殺すると予告したヘンリーを救おうと奔走するが───

奇妙なまでに反復される事象。不可思議に繋がる場所と場所。揺れ動く時間の流れ…。『ステイ』は、不穏なビジュアル・イメージに彩られた心理スリラーの体裁をなしている。しかし、観客にショックを与えることや、頭脳戦を仕掛けることを目的とした映画ではない。『ステイ』の本質は、人間の感情の有りようを繊細に描いた、重厚な人間ドラマなのだ。

物語の枠組みが明らかになるのは、クライマックスでスリラーとしての謎が解かれてから。それから観客一人ひとりが物語を再構築することになる。つまり、『ステイ』の物語は観客の数だけ存在する。観客それぞれが登場人物の感情の流れをどう捉えるかで物語の意味合いが大きく変わる、非常に繊細な作品だ。

『ステイ』は、その構成上、初見では理解不能なセリフや出来事が多い上に、展開が淡々としているため、やや退屈に感じる人もいるかもしれない。だが、クライマックス前のシーンの美しさや、多重構造を持った奥深さなど、特筆すべき点も多い。そしてなにより、記憶の中で物語が再構築されてから湧き上がる、静かで深い感動は格別だ。

そうした他にはない静謐な感動を体験できる、『ステイ』は独特の感覚に溢れた佳作です。

評点(10点満点)

【7.5点】地味だが味わい深い。

余談: 私はこう観た

(注) ここ以降はネタバレを含みます。既に観賞した方のみお読みください。

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『ステイ』を既にご覧になったならご存知の通り、冒頭とラストにあるブルックリン橋でのシーン以外は、ヘンリー・レサムが死の間際に見た幻想だ。

ここで一番のポイントは、ヘンリーだけが見たはずの幻想がサム・フォスターの記憶にフラッシュバックしたことだろう。

これは、現実世界で事故現場に居たヘンリーと周囲の人たちとの間で、超現実的な魂の交流があったことを示唆している。

ヘンリーが見た幻想は、ヘンリーの記憶と感情だけで構成されていたのではなく、サムやライラの感情と魂も綯い交ぜにされていた。すなわち、サムもライラも"実際に"ヘンリーの幻想の世界に居たのだ。

だからこそ、「僕を許して」と贖罪を求めるヘンリーの魂にサムは赦しを与えることができた。サムはヘンリーの命こそ救えなかったが、魂は救ったのである。

タイトル:
『ステイ』レビュー
カテゴリ:
映画
公開日:
2006年10月02日
更新日:
2018年05月30日

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