『マッチポイント』レビュー

───テニスの試合でボールがネットに当たって跳ね上がる。運良くボールが向こうに落ちたら、勝ち。こっちに落ちたら、負けだ───

イギリスの上流階級に取り入った、野心家の元プロテニスプレイヤーが人生のマッチポイント【試合を決める最後の一点】を迎えるその瞬間を機知に富んだ脚本で魅せる一作が本作『マッチポイント』。

監督・脚本はウディ・アレン。とにもかくにも脚本が良く書けていて、掛け値なしに素晴らしい。台詞の一つひとつが洒落ていて、無駄がなく、日常の会話を積み重ねているだけのシーンも飽きさせない。

30作以上もの作品を監督してきたウディ・アレンの演出の手腕は言わずもがな、映画のエッセンスを熟知した職人芸といえる見事なもの。クライマックスへの布石を淡々と積み重ねていく序盤から観客をさらりと惹きこみ、スローモーションで映し出すマッチポイントの瞬間で息を呑ませる。

そして、アイロニーに満ちた奥深いエピローグを見終わる頃には、なんとも言えない充足感が胸を包む。開幕から終幕まで隙がなく、実に素晴らしい。撮影当時69歳のウディ・アレンの枯れることのない才気とバイタリティには、只ただ感服するのみである。

素晴らしいのはウディ・アレンだけではない。ファム・ファタールがハマるセクシーなスカーレット・ヨハンソンを始めとするキャストの演技から、撮影、美術、選曲と、隅からすみまで「これぞ映画!」と膝を打つ出来栄えだ。

人知の及ばない現象でありながら、誰もがその存在を感じている「運」。その運が織り成すいたずらでスリリングなマッチポイントの一瞬は、観客の記憶にいつまでも残る名場面になるだろう。

評点(10点満点)

【10点】繰り返すが、これぞ映画!

ウディ・アレン監督作

タイトル:
『マッチポイント』レビュー
カテゴリ:
映画
公開日:
2006年11月07日
更新日:
2018年05月30日

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