『リバティーン』レビュー

───始めに断っておく。諸君は私を好きになるまい。男は嫉妬し、女は拒絶し、物語が進むにつれてどんどん私を嫌いになる。淑女たちに警告。私はところ構わず女を抱ける。紳士諸君も嘆くことなかれ、私はそっちもいけるから気をつけろ。…私はジョン・ウィルモット、第二代ロチェスター伯爵。どうか私を好きにならないでくれ───

『リバティーン』は、王政復古期の17世紀イギリスに実在した詩人ロチェスター伯爵の伝記物語。冒頭のロチェスター伯爵のモノローグから始まる本作は、重厚でとても見ごたえのある映画だ。

残された記録に基づいた物語なので、歴史映画的側面もあり、時代背景を知っていないとわかりにくい部分も多少はある。しかし、権威に盾を突きつづけ、やがてはセックスとアルコールで身を持ち崩してしまう芸術家像は、ロチェスター伯爵の生きた時代から数百年経った今でもロックミュージシャンなどに見られる姿であり、時代を超越した普遍的な物語として観ることができる。

脚本の冒頭3行を読んだだけで出演を即決したというジョニー・デップは、彼以外にロチェスター伯爵は考えられないと思わせるほどのハマリ役だ。どんな役を演じてもハマリ役に感じさせてしまう懐の深さがジョニー・デップにはあるのだが、本作のような時代物は彼の魅力をひときわ輝かせる。

そして、魅力的なのはジョニー・デップだけではない。国王(チャールズ二世)役のジョン・マルコヴィッチは、ロチェスター伯爵への父性的な愛情をにじませる、実に存在感のある演技をしている。その他の役者陣のアンサンブルも秀逸で、映画初監督作品でありながらここまでまとめ上げたローレンス・ダンモア監督の手腕はなかなかのものだろう。

ずば抜けた才能や、たぐいまれな美貌などを持ち合わせた人物が破滅的に生きる様は、時に人を強く惹きつける。さて、あなたは「どうか私を好きにならないでくれ」と観客に語りかけるロチェスター伯爵を言葉どおり嫌いになるだろうか。それとも、魅了されてしまうのだろうか…。

評点(10点満点)

【8点】決して難しい映画ではない。

時代背景

『リバティーン』の時代背景を知りたい場合は、ネット百科事典「ウィキペディア」の王政復古(ヨーロッパ)チャールズ二世(イングランド王)などの項目が参考になります。

タイトル:
『リバティーン』レビュー
カテゴリ:
映画
公開日:
2006年09月28日
更新日:
2018年05月30日

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