『SF短編PERFECT版』藤子・F・不二雄 書評

「『ドラえもん』をやめさせてくらないんだ」と父が憤慨していた時期があった。

7巻に収録されているエッセイにて、故藤子・F・不二雄氏の長女である藤本匡実さんが、そう告白している。藤子・F・不二雄氏は『ドラえもん』を愛していなかった、と言う話ではもちろんない。

作家としての晩年には、『ドラえもん』にこだわり続けた父である。

とも書かれている。ただ、他にも書きたいものがあったのではないか、と藤本匡実さんは推測している。

藤子・F・不二雄氏の作品と言えば、児童漫画のイメージしかない人がほとんどではないだろうか。しかし、氏は青年漫画も書いている。その代表作が『SF短編』だ。複数の雑誌に断続して掲載された『SF短編』の、全112話を完全収録したのが 『藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版』。児童漫画の制約から解放された収録作品群は、まさにアイデアの洪水。天井知らずの想像力は、読む者の常識を超越する。

「サイエンス・フィクション」や「スペース・ファンタジー」ではなく、「すこし・ふしぎ」だと氏が語る『SF短編』の題材は、実に多岐にわたっている。例えば2巻収録の『やすらぎの館』は、中年の主人公が、幼児プレイの秘密クラブにはまる話。ポルノ漫画ではない。全編に染み渡るノスタルジアと、ブラックでどこか悲しい結末。幼児プレイを題材に、こんな物語をつむげる人は、そうはいない。その他にもドメスティック・バイオレンス、クローン、中年の焦燥感、映画『アンブレイカブル』の先駆け的なもの、神の奇跡、『オバケのQ太郎』の後日談、人生の岐路、等々列挙していったら切りがない。そのどれもがオリジナリティーに富み、さらに、鳥肌が立つような瞬間で満ちている。

『ドラえもん』は間違いなく傑作で、金字塔だ。それ故に、藤子・F・不二雄氏の他作品を陰に隠してしまう向きがある。『SF短編』を埋もれさせておくのは、あまりに惜しい。おそらくは、あなたに新しい想像力の翼を与えることになる作品なのだから。

評点(10点満点)

【10点】もっと多くの人にこの作品を読んで欲しい。

タイトル:
『SF短編PERFECT版』藤子・F・不二雄 書評
カテゴリ:
公開日:
2006年09月06日
更新日:
2018年05月30日

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