『トゥモロー・ワールド』感想: 人類の子供たち

莫大な予算をかけた大作映画は、たいてい「誰でも楽しめる」ように作られてる。「分かる人は分かる」じゃあ、制作費を回収できないから、それも当然。

でも、まるでインディペンデント映画のように意欲的な大作が、まれに現れる。映画会社のコントロールをうまくすり抜けて──もしくはごまかして──公開までこぎ着ける。そんな映画の一つが『トゥモロー・ワールド』なのだ。

あらすじ

人類が生殖能力を失ってから18年。その原因は不明のまま、世界は緩やかに滅び始めていた。混沌が広がる中、イギリスは国境を封鎖し、かろうじて秩序を保っていた。

イギリスのエネルギー省に勤めるセオは、元妻のジュリアン率いる反政府組織“フィッシュ”から移民用通行証の入手を頼まれたことから、思わぬ事態に巻き込まれていく...。

世界観

舞台は近未来の2027年。だからといって未来的なものは、ほとんど登場しない。むしろ世界は、『トゥモロー・ワールド』が公開された2006年よりも少しばかり後退している。

大作映画の醍醐味でもある「見たことのない世界」じゃなくて、「見覚えはあるけど、なにかが少し違う世界」。細かい成り立ちは省かれ、違和感のみがそっと提示されている。

アクション

アクションシーンによくある、細かいカット割りでのごまかしは一切なし。むしろ、ブライアン・デ・パルマ(1)ばりの長回しばかり。

最大で6分を超えるこれらの長回しは、実際には複数のカットをつなげているらしい。とはいえ、肉眼ではつなぎ目を判別できないから、長回し特有の生理的な臨場感はばっちりそのまま残ってる。

車の襲撃シーンなんかは、POVホラーのような得体の知れない緊迫感が味わえた。『トゥモロー・ワールド』の売りになってるこれらの長回しは、期待を裏切らない。

(1)長回しで有名な映画監督。

ストーリー性

世界観と同様に、物語からも説明は極力省かれているから、舌足らずだと感じる人も少なからずいるようだ。ネットレビューを読むと、これが理由で賛否が割れていることが分かる。

これは脚本家の力不足ではなくて、ストーリー性よりも臨場感をあえて優先したからだと擁護したい。手取り足取り説明すると、失われるものは必ずある。結果、好みが分かれる映画になってしまったのは仕方がない。

なので、ストーリー性を重視する人にはおすすめしません。

キャスト

主演のクライヴ・オーウェンは、なんといっても顔が良い。いわゆる美男とは違うけど、他の人と混じらないし、スクリーンの間が持つ味がある。演技も程よく抑制されていて、監督の意図を体現して作品を引っ張っていく、まごうことなき主役である。

脇を固めるマイケル・ケインとジュリアン・ムーアも文句なしの好演。

邦題

どうにもいただけないのが『トゥモロー・ワールド』という邦題。どこかアクションSF大作を連想させるようなタイトルで、作品のカラーとかみ合ってないのでは?

原題は『Children of Men』で、そのまま訳せば「人類の子供たち」。映画に合わせて改題されるまでは、原作小説の日本語版のタイトルも『人類の子供たち』だった。こちらのほうが、雰囲気に合ってると思う。

でも、『トゥモロー・ワールド』のほうが客を呼べるのかな?

ネタバレ

18年ぶりに母となる女性が黒人なのは、母方の家系をさかのぼると必ずたどり着くというミトコンドリア・イブ(2)がおそらく黒人だったことに起因しているのだろう。

そして、生まれた子供は女の子。こうしてまたミトコンドリアDNAが脈々と受け継がれていくことを連想させる。

原題が『人類の子供たち』なのだから、ここからまた新しいスタートが始まるのだろう。暗い映画だけど、希望のあるラストだった。

人類を破壊するのも再生させるのも、すべてはまた人類自身である、と私は解釈しました。

(2)人類の最も近い共通女系祖先。詳しくは、ミトコンドリア・イブ - Wikipedia

お気に入り度

誰にでもすすめられる映画ではないけれど──実際、興行的には失敗した──、個人的には大満足でお気に入り度は85%です。

タイトル:
『トゥモロー・ワールド』感想: 人類の子供たち
カテゴリ:
映画
公開日:
2013年02月10日
更新日:
2015年02月24日

この記事をシェア

あわせて読みたい