『バス男』感想: ナポレオン・ダイナマイト!

駄作映画につけれらることの多い邦題が、話題作のタイトルをもじったもの。『電車男』をもじったと思わしき『バス男』も、どうせ駄作なんだろうと今までスルーしていたのが間違いでした。『バス男』は、日本でビデオスルー(1)なのが信じられないくらいの掘り出し物だったのです!

(1)劇場公開が見送られて、ビデオでリリースされること。劇場未公開映画。

あらすじ

ナポレオン・ダイナマイトは、アイダホのド田舎に住んでいる、ダサくてさえない高校生。学校の友達は、メキシコ系移民のペドロだけ。生徒会長に立候補したペドロを当選させようと、ナポレオンは応援するのだが……。

オープニングクレジット

まずは、オープニングクレジットでいきなり心をわしづかまれること間違いなし。マスタードやケチャップで名前が書かれた料理や、本の貸し出しカードの名前欄など……。それらの小物のセレクトがいちいち絶妙だし、色使いもとっても素敵。スタッフを紹介しているだけなのにこの吸引力!

いやでも良作を予感させる順調な滑り出しです。そして続く本編は、その期待を裏切りません。

学園ものコメディ

『バス男』は、ざっくりいうと学園ものコメディです。でも、どたばたしない。とにかく飄々(ひょうひょう)としていて、じわじわ、にやにやくる感じ。オフビートな作風です。でも不意に思わず噴き出してしまうようなネタが飛び出すから油断できません。

スクールカースト

学園ものを描くうえで避けられないのがスクールカースト。とくにアメリカは、日本よりもスクールカーストが熾烈だと聞きます。主人公のナポレオン・ダイナマイトが通う高校でも、ジョックと呼ばれる体育会系男子とチアリーダーを頂点としたヒエラルキーが形成されています。そしてナポレオンとペドロは、いわゆるナード。

でも、『バス男』におけるジョック対ナードの対立構造はごく緩やか。なにぶん誇張されたド田舎なので、ジョックも大してイケてません。はたから見れば、双方それぞれの意味で「はぐれ者」なのに変わりない。だから息苦しさとは無縁で、映画の雰囲気がいいんです。

キャスティング

いつでも口を半開きしているナポレオンと、うつろな目のペドロ。役作りじゃなくて、ホントに少し変な人なのではと思えてくる、絶妙なキャスティングです。よくもまあ、これだけそろえたと感心するくらい、みんな一様におかしな雰囲気をかもしています。

演じていないオフショットとのギャップがすごい。当たり前だけど、みんなちゃんとしてます。素のローワン・アトキンソンが、Mr.ビーンとは掛け離れた紳士なのと一緒ですね。

邦題

『バス男』の原題は『Napoleon Dynamite』です。主人公のナポレオン・ダイナマイトというばかげた名前は、まさに「名は体を表す」。この映画の雰囲気を的確にとらえています。邦題もそのまま『ナポレオン・ダイナマイト』にして、副題やキャッチコピーで補足するのにとどめるべきだったのでは?

なにせ、バスがちっとも重要な要素じゃないんです。主人公がスクールバスで通学しているだけ。この邦題で敬遠している人は、少なからずいるのではないでしょうか。ホント誰得な邦題です。

追記

2013年10月に再発されるBlu-ray/DVDから、邦題が『ナポレオン・ダイナマイト』に改題されます。

めでたい!のだけど、この改題は映画愛ゆえではなく、要は『電車男』の商品価値が急落した今となっては便乗する意味がない、という商売上の理由としか思えません。邦題の評判の悪さを逆手に取った、ただの話題作りなのでは?

だって、こんな傑作に『バス男』なんていう侮辱的な邦題をつけることが、映画に対する愛がない証拠ですから。

とはいえ、本来あるべきタイトルになること自体は、もろ手を挙げて歓迎です。

ナポレオン・ダイナマイト
監督:
ジャレッド・ヘス
出演:
ジョン・ヘダー

邦題を『バス男』から、原題に沿った『ナポレオン・ダイナマイト』に改題した再発版。収録されている本編・特典映像は『バス男』版と同内容です。

ネタバレ

ナポレオンの兄のキップがチャットで知り合ったラフォンダに、なんの裏もないのがいい。このようなエピソードでは、痛い目に合うのが定番。『バス男』は、そういったネガティブな要素でストーリーに抑揚を付ける手法をできる限り避けています。

生徒会選挙でペドロが当選したのも、ナポレオンのダンスがジョックのパフォーマンスを上回った結果であって、ジョックに恥をかかせるような真似は──図らずも面子はつぶしたかもしれないけど──していません。

だから、劇中の天気のように、映画の雰囲気も晴ればれしていました。

お気に入り度

さえない日々でも青春はまぶしい。なんやかやで青春を謳歌しているナポレオンたちもまぶしくって、不思議と元気がもらえました。『ナポレオン・ダイナマイト(旧題:バス男)』のお気に入り度は、星4つです。青春コメディの傑作でした。【投稿: マコネ

タイトル:
『バス男』感想: ナポレオン・ダイナマイト!
カテゴリ:
映画
公開日:
2013年03月10日
更新日:
2014年04月15日

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