アニメ『惡の華』第10話感想

ネタバレあり

二人乗り自転車で山の向こうを目指す春日高男と仲村佐和。雨に見舞われた二人が路肩で休憩している元に、春日を捜していた佐伯奈々子が追いつくが……。

思春期にありそうなこと、なさそうなこと、紆余曲折を経て「あの山の向こう」の一歩手前まで辿り着いた春日くん。そこで彼を待ち受けていたのは、二人の女の子、仲村さんと佐伯さんのどちらかを選ばなければならない選択肢でした。

肥大した自我が作り出した「特別な自分」が、「本当の自分」に折り合いをつけれずに苦悩する。そんな思春期における通過儀礼が、アニメ『惡の華』の描くところだったのですね。

さて、「特別」ってなんなのでしょう。

「私、本当にうれしかったんだもん。春日くんは、石ころだった私を宝石にしてくれたんだもん」

佐伯さんの言い放ったこの台詞は、一見すると安っぽくて薄っぺらい。でも、誰かと想い想われることは、たしかに宝石のように特別なんだ。だから想いを寄せていた佐伯さんに想われている春日くんもまた、特別な自分を手に入れているのです。

「僕は違うって思ってた。ほかの下らない奴らとは違うって。見ないようにしてた、本当の自分を。特別じゃない自分を。僕は、空っぽなんだ」

ところが春日くん、それでも自分を特別だとは思えないようです。どうやら春日くんが言うところの「特別」とは、『悪の華』を執筆したシャルル・ボードレールのように、時代を超えて人々に影響を与え続けるような存在を示しているようです。

いかにも思春期の男の子です。佐伯さんのほうがずっと現実的。おそらく春日くんは、そんな佐伯さんを「ほかの下らない奴ら」と同様に見下しています。そして、そのことに無自覚です。繰り返すけど、いかにも思春期の男の子ですね。

結局どちらも選べなかった春日くんは、二人から失望されていまいました。頭に浮かんだのは、小説『コインロッカー・ベイビーズ』のこの台詞。

「自分の欲しいものが何かわかってない奴は石になればいいんだ。だって欲しいものが何かわかってない奴は、欲しいものを手に入れることできないだろう?石と同じだ」

村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』より
コインロッカー・ベイビーズ
著作者:
村上龍
出版社:
講談社

コインロッカーを胎内としてこの世に生まれ出たキクとハシ。廃墟と化した東京の上空に、華やかなステージに、そして南海の暗い海底に強烈な破壊のエネルギーがほとばしる。

春日くんの望みは漠然としすぎているから、二人に呆れられるのも仕方がない。残すことあと3話。春日くんは自分が本当に欲しいものを見定めることが出来るのでしょうか。

余談

第10話は、オープニング曲を省いて、春日くんと仲村さんが自転車であの山の向こうを目指すシーンを背景にしてスタッフクレジットを流しました。なんだがとても映画的でぐっとくる演出です。いつもと違うオープニングやエンディングって吸引力がありますね。

今回、笑わせてもらったのは、春日くんの脱がされ上手ぶり。あれよあれよと真っ裸になるんだもの!AV女優さながらです。いや、仲村さんが脱がせ上手なのか。

あと、ちょい役のたこ焼き屋がマキタスポーツなのも贅沢(?)なキャスティングです。ロトスコープは、声優の職人的技術がない人がアテレコしても違和感がありません。なにせ、絵も本人が元ですから。これはロトスコープの大きな利点ですね。

タイトル:
アニメ『惡の華』第10話感想
カテゴリ:
テレビ
公開日:
2013年06月24日
更新日:
2013年10月30日

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