『オズ はじまりの戦い』感想: あなたがだませているのは、あなただけ
映画館で3Dの予告編を観て、立体感の具合も良好だし、大スクリーンに映える幻想的な世界観も惹かれるものがあった『オズ はじまりの戦い』。これは映像だけで元が取れそうだと映画館で3D版を観てきました。
あらすじ
小さなサーカス団で働く奇術師のオズは、奇術の腕はあるけれど、女たらしのお調子者。女性関係でもめた団員から逃げようと、オズは気球に乗り込むが、竜巻に巻き込まれてしまう。気球が竜巻で飛ばされた先は、なんと魔法の国「オズ」だった……。
魔法の国
『オズ はじまりの戦い』は、1939年に公開された『オズの魔法使』の前日譚で、同じ世界の物語です。とはいえ、魔法の国オズは、いかにも『アバター』後っぽい今風にアップデートされていて、ときめかされました。
でもその世界観が活かされているのは、オズに到着してから少しのあいだだけ。すぐに、ありふれたファンタジーの風景になってしまうのが残念でした。
その中で異彩を放っていたのは、陶器の少女です。魔法の国だから、陶器製だって生きてます。彼女は、とてもかわいいのだけど、同時になんだか怖い!「人間にとても近いけど、人間でないもの」が引き起こす「不気味の谷現象」を感じたのは私だけでしょうか。かわいいと怖いのあいだで感情が行き来する不思議な体験ができました。
立体感
『アバター』がヒットしてから粗製濫造された作品のせいで、3D映画に対する印象が悪い人も多いかと思います。でも、さすがに製作会社も反省したようで、最近の3D映画は立体感が改善されていますよ。
『オズ はじまりの戦い』の立体感も良好でした。とくにオープニングクレジット!この立体紙芝居風のオープニングクレジットは、奥行き感がすごいです。3Dにすると、ここまで化けるのかと驚きました。
キャスト
胡散臭いのにチャーミング、というオズのキャラクターにジェームズ・フランコがハマってます。女にだらしないのは目に見えてるのに惚れちゃう、みたいな。ジェームズ・フランコは笑顔がすてきですね。彼のことを好きになったら、ニコラス・ケイジが監督した『SONNY ソニー』でのプレイボーイ役が必見です。地味な映画ですが良作ですよ。
魔女の三姉妹を演じるのは、ミラ・クニス、レイチェル・ワイズ、そしてミシェル・ウィリアムズ。いやはや豪華です。でも、実力派を集めた割には魔女たちの迫力が足りません。みんな、集中力に欠ける演技をときおりしているような……。これは、サム・ライミ監督の演出のせいなのか、なんなのか。ちょっともったいない。
ネタバレ
子供に安心して観せられるディズニー印、ということで刺激の強い要素は排除されています。「悪い魔女」といわれても、その悪行が映像化されてないからぴんと来ません。悪い魔女に堕ちたセオドラも、ジム・キャリーの『マスク』みたいでコミカルです。すこしは毒気が欲しいところ。
グリンダの「私は善い魔女よ」という話をオズの一行が証拠もないまますぐに信じたり(悪い魔女ならうそをつくよね)、陶器の少女の脚がすぐにくっついたり(その時代に瞬間接着剤?)、グリンダの元でみんな幸せそうに暮らしてたり(悪い魔女って悪さしてないの?)、気球で逃げるのがフェイクだということをオズがなぜか仲間にも隠してたり(仲間をだます意味あった?)……。
などなど、ところどころいい加減で、脚本の出来は褒められたものではありません。にもかかわらず、フィンリーと陶器の少女の(キモ)かわいさと、オズを演じるジェームズ・フランコのキュートな笑顔、そして優れた3Dによる没入感で最後まで楽しく鑑賞しました。
ひとつ心残りなのは、車椅子の少女が最後まで救われなかったこと。車椅子の少女を演じたジョーイ・キングが陶器の少女の声も担当していて、二人はリンクする存在であることが示唆されています。それならば、オズが陶器の少女を救ったことで、現実世界の車椅子の少女も歩けるようになる魔法のような出来事が起きて欲しかった。
お気に入り度
心の中で突っ込みを入れつつ、なんだかんだで楽しく観れた『オズ はじまりの戦い』。3D版を前提で、お気に入り度は70%です。それにしても、『死霊のはらわた』で世に出たサム・ライミがこんなファミリームービーを撮ることになるとは、誰が予想したことでしょうか。
- タイトル:
- 『オズ はじまりの戦い』感想: あなたがだませているのは、あなただけ
- カテゴリ:
- 映画
- 公開日:
- 2013年03月22日
- 更新日:
- 2014年08月13日