『オブリビオン』感想と解説: I'm him.
自分の寿命では届くはずのない未来を垣間見ることが出来るSF映画は、まだ見ぬ世界に対するあこがれをつかの間満たしてくれます。『オブリビオン』は、がっつり予算をかけて未来の地球を描いた、久しぶりのSF超大作です。
あらすじ
人類がエイリアンの侵略攻撃を受けてから60年の月日が経った2077年。人類は辛くも勝利を収めたが、地球は壊滅的な損害を受けてしまっていた。わずかに生き残った人類は、土星の衛星タイタンへの移住を進めていた。
もはや地球上には、海水からエネルギーを発生させる装置をエイリアンの残党から守る任務に就いている、ジャック・ハーパーとヴィクトリアの二人しか残っていない。
毎晩、見知らぬ女性の夢を見るジャック。しかし、機密保全を理由に任務に就く前の記憶を消されたジャックは、彼女が誰か思い出すことができなかった。
任務の満期が迫ったある日、宇宙へ向けて発信されている未確認の信号の調査に向かったジャックは、思わぬものに遭遇する……。
配給会社の姑息なうそ
『オブリビオン』の上映が始まって、地球に残っているのが二人なのを見たときは、頭の中が「?」で一杯になりました。なぜなら、『オブリビオン』のチラシ(フライヤー)に
「彼は、何故ひとり、地球に残されたのか──?」
と書いてあるのを読んでいたから。
配給会社は、地球に残っているのが二人よりも、主人公一人のほうが客を呼べると考えたのでしょうか。うそのキャッチコピーで興味を惹くなんて最低最悪。おかげで無用に混乱してしまいました。
映画本編には罪のない話なのだけど、あまりにも腹が立ったので、書かずにはいられなかった次第です。
閑話休題
さて、気を取り直して映画本編に触れます。でも『オブリビオン』はネタバレをせずに語るのが難しい物語だったため、ネタバレ解説FAQの形でまとめました。
ネタバレ解説FAQ
- 主人公は何者?
宇宙飛行士だったジャック・ハーパーの複製人間です。ジャックの複製人間は多数存在しており、主人公はその49号です。
- クローン人間と違うの?
違います。いわゆるクローンとの相違点は、記憶までオリジナルの個体と同一であること。だから記憶を消されていたのです。
- ジャックがクローンだって言ってなかった?
たしかに、ジャック49号が湖畔の隠れ家でジュリアに「僕はクローンだ」と字幕で言っています(1)。しかし実際には「I'm not him」、つまり「僕は彼じゃない」と言っています。彼とはジャックのオリジナルのこと。
この過剰な意訳は、混乱を招いただけではなく、後述する大オチへの複線を台無しにしてしまいました。
(1)劇場公開版において。DVD/BD版は未確認です。
- ジャックのオリジナルはどうなったの?
劇中では明示されません。しかし、60年の歳月が経っているため、殺されていなくても、年をとり死んでしまっているでしょう。
- 誰がジャックを複製したの?
地球に侵略攻撃を仕掛けてきた地球外存在です。兵士として利用するためです。なぜ、こんな非効率な手段を取るのかは分かりません。
- 地球外存在?
どうやら機械のようです。誰が何のため作ったのかは劇中では明かされません。地球に膨大にある水が目的のようです。
- 侵略してきたのはスカヴっていうエイリアンじゃないの?
スカヴの正体は人類の生き残りです。ジャックとヴィクトリアは、サリーに騙されていたのです。
- スカヴと呼ばれていた人類は、なぜあんな格好をしていたの?
あれは、ドローンに探知されないためのステルス機能を持った装備です。でも、あんな格好をしていなければ、ジャック49号の信頼をもっと早く得られたのにね。
- 勝利したのは人類じゃないの?
人類は敗北しました。ジャックたちを手先として使うためのサリーの方便です。
- サリーの正体は?
複製ジャックたちに指示を与えていたサリーは、敵のAIです。見た目は、オリジナルジャックの上司だったサリーを模しています。ジャックと本部との映像通信を傍受してキャプチャーした映像を使っているようです。
- 地球の軌道上に浮かんでいるテットってなんだったの?
テットは、タイタンへ移住するまで一時的に人類が生活している宇宙コロニーだと、複製ジャックたちは思い込まされていました。実際は、地球外存在の本拠地(母船)です。
- 複製ヴィクトリアは、なぜAIサリーに異様なほど従順なの?
ヴィクトリアのオリジナルは、ジャックが好きだったのです。しかしジャックは既婚者で、叶わぬ恋でした。AIサリーに与えられたジャックとの共同生活は、ヴィクトリアが心から望んでいたものだったのです。その生活を守るため、AIサリーに従順だったのです。
複製ジャックのヴィクトリアへの想いは作られたものでしたが、ヴィクトリアの想いは本物だったのです。
- オリジナルヴィクトリアがジャックに恋してたことが分かるシーンってある?
60年前の宇宙船で、オリジナルヴィクトリアがジャックに頬を寄せて写真を撮るシーンから想いが見て取れます。また、ジャックの戸惑う表情から、片想いだったこともうかがえます。
宇宙船からデルタ睡眠用の区画を切り離すとき、ヴィクトリアは、ジャックと運命を共にすることを選びました。それほどまでに強い想いだったのです。
- 汚染区画に入ったジャックに健康被害がなかったけど?
複製ジャックは地球上に多数いるため、お互いが遭遇しないように、それぞれのジャックがいる区画を分ける必要がありました。汚染は、AIサリーによる口実に過ぎません。
- 汚染区画にいたもう一人のジャックは何者?
彼もジャックの複製人間です。スーツに刻まれた番号からジャック52号だと分かります。
- ジュリアは何者?
オリジナルジャックの妻です。60年間デルタ睡眠していたオリジナルです。
- デルタ睡眠?
劇中でその詳細は語られませんが、いわゆるコールドスリープと似たようなものでしょう。デルタ睡眠中は老化しない模様。
- ジャック49号は、なぜ湖畔に隠れ家を作っていたの?
湖畔での生活は、オリジナルジャックが妻のジュリアと約束していたものでした。ジャック49号は、記憶を取り戻しつつあったため、本来の目的は分からないまま、湖畔に隠れ家を作ったのです。
- ジャック49号は、なぜジュリアを湖畔の隠れ家に送ったのか?
敵の本拠地を破壊しに行くジャック49号と運命を共にすることをジュリアは望みました。しかしジャック49号は、ジュリアに生きて欲しかったのです。(共に死ぬことを選んだヴィクトリアのときとは対照的です)
では、なぜわざわざ湖畔の隠れ家に送ったのでしょうか。それも、みんなには秘密にして。そのせいでジュリアが発見されるまで3年も掛かってしまいました。これには、ジャック49号の重要な意図があるのです。
それは、ジュリアを迎えに行くのは、本物のジャックでなければならないから。
つまり、記憶を完全に取り戻した複製ジャックである必要があったのです。敵の本拠地を破壊したことで、バブルシップやドローンは使えなくなります。広大な地球上からジュリアを人力で見つけるには、彼女との約束を思い出さなければなりません。
ジャック52号は、記憶を取り戻したからジュリアの居場所が分かったのです。ジャック49号は彼女に言いました「僕は彼じゃない」と。しかしジャック52号は、「僕は彼だ」と彼女に伝えます。オリジナルジャックは、すでに死亡してします。ですが、記憶を完全に取り戻したジャック52号もまた本物のジャックなのです。
このネタバレ解説は個人的見解です。推測も多分に含まれていますのでご了承ください。
映像
ネタバレ解説で書いたように、意外にも物語が楽しめた『オブリビオン』。でもやっぱり凄かったのは映像です。その現実感は、近年のSF映画の中で出色です。最近の映画を見慣れた人でも驚きがあるはず。
鑑賞後にプロダクションノートを読んで納得、現実感があるのは当たり前でした。だってアイスランドでロケした本物の風景なのだから!役者以外は全部グリーンバックに合成されたCGという映画が増えているけれど、やっぱり本物にはかないませんね。
それだけではありません。ジャックたちの住まいであるスカイタワーの窓から見える空も、ポストプロダクションで合成したのではなく、セットの外に空の映像を投影して撮影したそうです。トム・クルーズらは、スカイタワーの窓の外に、グリーンスクリーンではなく、実際に空があるかのように見えるセットで演技をしているのです。
そのほかも、可能な限りロケ・セット・模型など、現実のものを使って撮影したようです。広々とした空間を生理的に感じるのは、そういったこだわりの賜物なのですね。
物語は舌足らずで評価が分かれそうですが、映像は文句なし。一見の価値があります。
お気に入り度
冗長さをいくらか感じつつも、映像に吸い込まれ、124分を楽しく鑑賞しました。物語も噛み締めると味が出てきます。1度観てピンとこなかった人は、ネタバレ解説FAQを読んでみてください。新たな発見があるかもしれません。というわけで、『オブリビオン』のお気に入り度は星 つです。【投稿: マコネ】
- タイトル:
- 『オブリビオン』感想と解説: I'm him.
- カテゴリ:
- 映画
- 公開日:
- 2013年06月08日
- 更新日:
- 2014年04月15日