これから観始める人におすすめのソリッド・シチュエーション・スリラー傑作選
スリラーの中でも、舞台となる状況を狭く限定した映画は、ソリッド・シチュエーション・スリラーと呼ばれています。実際にはサスペンスだったりホラーだったりと、区分けが曖昧なジャンルだけども、どの作品にも共通しているのは、好奇心と緊張感を過剰にあおる物語だということ。
刺激に飢えた映画ファンの溜飲を下げる作品群は、どれも熱い支持を得ているものばかり。そんなソリッド・シチュエーション・スリラーの、これだけは押さえておきたい人気作をまとめて紹介します。
『ソウ』(2004年)
このジャンルの代表作にして金字塔が映画『ソウ』なことに異論がある人はいないでしょう。 そもそもソリッド・シチュエーション・スリラーとは、『ソウ』の宣伝が使い始めた造語で和製英語なんです。英語圏ではSolid situation thrillerなんて言い回しはありません。
【最前列】に座れ 目を閉じるな ショックの限界を超える【ソリッド・シチュエーション・スリラー】
『ソウ』チラシより
また、ポスターやチラシに使われた日本オリジナルのキービジュアルは、メインとなるシチュエーションが一目で分かる秀逸なもので、これを目にして『ソウ』の劇場鑑賞を決めた観客も多かったはず。有能な宣伝担当者に恵まれて、この手の映画にしては国内での興行成績も良かったようです。
閑話休題。本作の成功によってあまたのフォロワー作品があふれかえった今でも、『ソウ』を超えたソリッド・シチュエーション・スリラーはないと言っても過言ではありません。
シチュエーションは、老朽化したバスルーム。実際には、他の時間軸や場所もかなり登場します。でも、このバスルームが……いやいやこれ以上語るのはやめましょう。『ソウ』は、予備知識が少ないほど楽しめますから。
難点は、あまりにも有名になりすぎて嫌でも予備知識が入ってきてしまうこと。感想やレビューを読む前に、猿まねの類似作品を観てしまう前に、なにはともあれ本作を観て!あっ、ちなみにホラー寄りで結構怖い映画なのであしからず。
『キューブ』(1997年)
よくある「目が覚めたら○○」の先駆け的な映画。『キューブ』では、立方体の小部屋が連なる謎の施設で主人公たちが目覚めます。ソリッド・シチュエーション・スリラーではシチュエーション自体も主人公といえますが、『キューブ』は特にその傾向が顕著です。とにかくこの施設が魅力的!このジャンルの魅力を理解するのに打って付けな映画です。
低予算ながら、舞台となるセットが怪しく美しい。『ソウ』のバスルームもそうだけど、ソリッド・シチュエーション・スリラーの傑作は、どれもプロダクションデザインが秀逸です。
ラストシーンも完璧で、「すごい映画を観た!」と思わせてくれます──賛否は分かれるだろうけど──。そのオチを台無しにする続編は完全に蛇足かと。
ヴィンチェンゾ・ナタリ監督は、これだけ素晴らしい作品を撮りながらも、そのあとのフィルモグラフィーがパッとしないのが残念。
『パニック・ルーム』(2002年)
『パニック・ルーム』は、フィルモグラフィーに意欲的な映画ばかりが並ぶデヴィッド・フィンチャー監督にしては、おとなしい作品です。とはいえ、ジョディ・フォスターという実力と人気を兼ね備えたスターが主人公のため華があります。
おまけに主人公の娘役は、今では『トワイライト』シリーズのベラ役でスターとなった、子役時代のクリステン・スチュワート。図らずも、新旧子役出身スター女優の競演になっています。のちに、妻子持ちの監督と不倫するスキャンダルで世間を騒がすことになるなんて夢にも思えない初々しさが見ものです。
エッジの立った作品の多いこのジャンルにしては、刺激の少ない本作ですが、その分だけ気軽に観やすい作品といえるでしょう、良くいえば。勢いだけではない、計算された完成度です。それでもやっぱり、荒が目立っても刺激が欲しいのがこのジャンルですが……。
街並みにスタッフ名が浮かぶクールなオープニングクレジットが白眉です。
『[リミット]』(2010年)
「限定されたシチュエーション」とはいうけれど、これ程までに限定された状況は他にはないでしょう。『[リミット]』の舞台は、埋葬された棺桶です。体の向きを変えることすらままならない、極限のシチュエーションで物語は進みます。
出オチ感が強く、ラストの弱さは否めません。それでも『[リミット]』は必見。これが映画として成り立つ限界ギリギリのシチュエーション。一つの究極といえるのだから、ソリッド・シチュエーション・スリラーを観ていくなら、本作を外せるわけがありません。
アメリカへの批判めいた社会的な要素もあるけれど、それには焦点を合わせず鑑賞したほうが素直に評価できそうです。
この手の映画を見慣れているとオチが読めてしまうから、早い段階で観るのがおすすめ。ただし、くれぐれも過度の期待はしないように。
『フォーン・ブース』(2003年)
基本的にソリッド・シチュエーション・スリラーの舞台は、外部から遮断された空間です。ところが『フォーン・ブース』の舞台は、人の行きかう街中の公衆電話ボックスなのが面白い。ある理由から主人公は公衆電話ボックスから出られないのです。
出来栄えはというと、アイデア一発勝負の勢いで押し切った感じではあります。とはいえ、このジャンルはアイデアと勢いが大事だからこれで良し。上映時間が80分強と短いから、序盤の勢いのまま最後まで鑑賞できます。
『オープン・ウォーター』(2003年)
ソリッド・シチュエーション・スリラーだからって、閉じ込められてなくたっていいじゃない。といわんばかりに主人公たちを大海原に置き去りにしたのが『オープン・ウォーター』です。『[リミット]』とは真逆で、限界まで広い空間を舞台に選んだのが秀逸です。
足のつかない深い海や、夜の海は、それだけで生理的に恐怖を感じます。海が苦手な人は見ていられないでしょう。
ただ、そんなシチュエーションの持つ力に脚本と演出が負けてしまっています。主人公たちの日常を丹念に描いていく序盤で期待が高まるも、その後の展開にうまく活かされていません。これは本当に惜しい。脚本家の力量次第で大化けする可能性があっただろうに。
それでも、海洋パニック映画の新境地を開いた本作は評価に値するかと。地味で単調な映画でも観続けられる人にのみおすすめです。
『裏窓』(1954年)
こういったまとめにクラシックな名画を入れるのは気が引けるけど、それでも外せないのがヒッチコックの『裏窓』です。
中庭を囲むように建てられたアパートに住んでいる主人公のカメラマンが、足を骨折して車椅子生活を余儀なくされ、退屈しのぎにカメラの望遠レンズで裏窓からアパートの住人たちを観察していると……、というシチュエーション。
覗き見という興味をそそる下世話なシチュエーションで、主人公の好奇心と観客の好奇心をリンクさせ、映画の世界へ引きずり込んでいくのがうまい。セットの秀逸さも相まって、フェティッシュな魅力があります。
クラシックながら今観てもスリルがあるし、一歩突っ込んだ解釈もできる懐の深さもあって文句なし。とはいえ、さすがに現代的なテンポとは違うから、それは承知の上で鑑賞のほどを。
主人公が怪我をして行動に制限があるだけで、閉じ込められているわけではないので、ソリッド~ではなく、ワン・シチュエーション・スリラー(こちらも和製英語)と呼ばれる部類の映画ですけど、原典の一つということでおすすめです。古典にも興味が出てきたら、いつかは是非。
後記
舞台が限られているソリッド・シチュエーション・スリラーは、低予算で短い期間で撮影できるということもあって、玉石混淆が甚だしいジャンルです。特に『ソウ』と『キューブ』の類似作品といったらもう……。掘り出し物を探すのは茨の道なので、まずは素直にメジャーどころから攻めましょう。
ということで、今回紹介した映画たちになるわけです。入門編としてふさわしいであろう作品をまとめました。
一度ハマると次から次へと観たくなる、とても中毒性の高いソリッド・シチュエーション・スリラー。あなたもこの深みにハマってみませんか?
- タイトル:
- これから観始める人におすすめのソリッド・シチュエーション・スリラー傑作選
- カテゴリ:
- 映画
- 公開日:
- 2013年11月10日
- 更新日:
- 2014年04月15日